褥婦が体を回復させながら育児が習得できるように寄り添うケアができます。
正常経過における産褥期の看護の基本を復習して臨むと、退院までの母児の5~7日間の流れがよくわかります。
ノートの内容
- 退行性変化
- 全身の変化
- 生殖器の変化
- 進行性変化
- 乳房の構造と機能
- 乳汁分泌の段階
- 母乳育児
- 母乳育児の指針になるもの
- 母乳育児の恩恵
1 退行性変化
〈用語〉
産褥: 分娩が終了し、 妊娠・分娩に伴う母体の生理的変化が非妊時の状態に復古するまでの状態
産褥期:産褥の期間を指し、 通常 6~8 週間である。
復古: 非妊時の状態に戻ること
褥婦: 産褥期にある女子
*退行性変化とは、全身の機能および形態の復古であり、
子宮、 膣、会陰部などの生殖器が解剖学的には非妊時の状態に戻り、
機能的には、排卵周期が再開するようにホルモン動態が戻る。
1⃣全身の変化
(1) バイタルサイン
✔ 呼吸
胸式呼吸から胸腹式呼吸に戻る
肺活量は若干増加、呼吸回数は変化なし
(分娩後、子宮の収縮に伴い 横隔膜が非妊時の位置に戻るため)
✔ 脈拍
分娩の影響を受けて一時的な頻脈あり
胎児循環消失により拍出量の減少や、交感神経の緩和による徐脈(40~60/min)
をみることがある(産褥0 ~ 1日目には通常に戻る)
✔ 血圧
非妊時の値に戻る
✔ 体温
分娩直後は一時的に37.5℃を超えることがある
分娩後24時間で37℃ 以下になる。
(一時的体温上昇は分娩で生じた創面の分泌物の分解・吸収による)
(2) 内分泌系
✔ 胎盤娩出により、胎盤由来ホルモン(胎盤由来ホルモンとは エストロゲン、プロゲステロン、ヒト絨毛性ゴナドロビン (hCG)、 ヒト胎盤性ラクトーゲン (hPL))の分泌量が急減する
✔ 耐糖能改善
インスリン抵抗ホルモン(プロゲステロン、プロラクチン)の減少
➡ 妊娠中にみられたインスリン抵抗性がなくなる
✔ 乳頭刺激による射乳・乳汁産生
胎盤娩出による血中プロゲステロンの急激な減少により、乳汁分泌抑制がとれる
✔ 吸啜刺激による射乳反射
吸啜刺激はオキシトシンを分泌させ、乳腺の腺房を取り囲む筋上皮細が収縮する
✔ 子宮収縮
オキシトシンは子宮筋にも作用し子宮収縮を促進、悪露の排出も促進する
* 月経再来
産褥期は一般的に無月経だが、血中プロラクチン濃度が非妊時の値まで低下すると、
血中エストラジオールの濃度および黄体形成ホルモン (LH) 濃度が上昇し、排卵を促し月経が再開する
(3) 循環器系
✔ 妊娠中に30~45%増ししていた循環血液量は、分娩時の出血、悪露、産褥期の発汗などによって減少
産褥3週間までに非妊時の状態に復古する
✔ 産褥子宮の下大静脈を圧迫 ➡ 下肢の血流速度が減少・血流停滞 ➡ 血栓をつくりやすい
(4) 血液
✔ 赤血球・ヘモグロビン(血色素量)・ヘマトクリット値
分娩時の出血で減少するが利尿や発汗により血液が濃縮しているのに、検査データの見た目の低下はない
✔ 白血球数
産後1ヵ月で非妊時の値にもどる
✔ 血小板数
分娩時の出血によって減少するが, 産褥期の出血に備えて血液凝固能は亢進する
(5) 腎・泌尿器系
✔ 利尿亢進
分娩による腹腔内圧が減少により腎機能が活性化、娩当日に尿量が1,500~2,500mLに達することがある
✔ タンパク尿
褥婦の4割にみられるが産褥2日以内に消失
✔ 尿意減弱・尿閉
分娩時の子宮(児頭)の圧迫の影響
➡ 膀胱の筋肉や神経の麻痺、尿道の攣縮、会陰部疼痛、腹筋の弛緩がある
✔ 腹圧性尿失禁
分娩時の骨盤底筋群の弛緩のため膀胱を支えきれず起こすことがある
(尿意減弱・尿閉・腹圧性尿失禁は分娩後24時間以内に起こりやすい)
(6) 消化器系
✔ 便秘
妊娠期から続く腸管蠕動運動の低下や 腹圧の低下、分娩時の減食、会陰裂傷や会陰切開の創部痛 痔核痛
➡便秘になりやすい
(妊娠中に低下していた腸管の蠕動運動は、産褥2週間には戻る)
✔ 痔
妊娠中に生じた痔は分娩時の努責と胎児の圧迫や産褥期の便秘などにより悪化しやすい
(7) その他
✔ 体重
分娩直後は、約5~ 6kg減少(胎児および胎児付属物の婉出や分娩時出血、発汗)
その後3~5㎏減る(利尿作用により妊娠中に貯留されていた体液喪失)
非妊時体重への復古は産後4~6カ月ごろ発汗: エストロゲン低下による自律神経の乱れによる
✔ 下肢
妊娠期にできた浮腫や静脈瘤は改善する
✔ 皮膚
妊娠線は完全復古しない
✔ 腹直筋
離開している
2⃣生殖器の変化
子宮復古は、妊娠分娩によって生理的に変化した子宮の大きさ、形、位置が
非妊時に戻る現象で、子宮復古にはオキシトシンが関与している
〈用語〉
産褥復古:全身の復古と子宮復古
(1) 子宮体部
✓胎盤娩出後, 子宮平滑筋は急速に硬く収縮
・収縮することで胎盤剥離面を結紮し、止血機序として作用
・胎盤娩出直後の子宮は, 子宮底が臍下3横指の位置まで収縮する
✓子宮底の位置の変化
・分娩直後― 臍下2~3横指、
・分娩12時間後― 臍高、右傾
(弛緩した骨盤底筋群や子宮支持組織の緊張回復、
子宮腔内の悪露の貯留 膀胱の充満)
・産褥1日 ― 臍下1横指程度、徐々に収縮、子宮の前傾と前屈が増す
・産褥10日 ― 腹壁上から触れなくなる
・産婦6~8週― 非妊時の子宮の大きさに戻る
⑵ 子宮の重量(分娩後、子宮筋細胞は急速に縮小)
・分娩直後 1,000g
・1週間後 500g
・2週間後 300~350g
・5週間後 200g
・8週間後 60g程度(ほぼ妊娠前の重量)
⑶ 後陣痛の変化
✓ 後陣痛
・子宮の収縮に伴う下腹部痛(俗にいう‟あとばら“)
・子宮収縮は胎盤剥離面を止血し、子宮復古を促す生理的な現象
・分娩後12時間は比較的強く反復、しだいに減弱し、
24時間後には不規則で弱くなる
・2~3日持続することもある
✓ 経産婦、巨大児・多胎妊娠・羊水過多・急速遂娩した褥婦は、後陣痛を強く感じる
✓ 新生児との面会や授乳時後は、オキシトシンの作用で後陣痛が強くなる
✓ 悪露の停滞、胎盤・卵膜遺残でも異物を排除するために後陣痛が強くなる
⑷ 子宮頸部の変化
✔ 分娩時に約10cm開大した子宮頸管は、柔らかく、大小の裂傷をみる
・分娩約8時間後、原型に近づく
・産褥3日、解剖学的内子宮口は1~2指の開大
・産褥4週、外子宮口は閉鎖する
(5) 内膜の変化
✔ 胎盤剥離は、子宮内膜の脱落膜の海綿層で起こる
✔ 胎盤剥離後の海綿層の外層は、壊死し悪露として排出、内層は剥脱せず子宮内膜を再生する
✔ 胎盤剥離面の再生は、6~8週間要する
✔ 胎盤付着部位以外(卵膜剝離面) の脱落膜の再生は、7~10日を要する
(6) 悪露
✔ 悪露は、産褥期間中に子宮および膣から排出される
悪露の成分は、胎盤剥離面からの分泌物、頸管・膣・会陰からの裂傷や擦過傷の分泌物、血液成分やリンパ液からなる
悪露の排出総量は、500~1000g(産褥4日までにその7・8割を排出する)
産褥日数 | 名称 | 色調 | 性状等 |
1~3日 | 赤色悪露 | 赤色~暗赤色 | 主成分は血液、流血性 |
4日~1週間 | 赤褐色悪露 | 赤褐色~褐色 | 血性成分減少、白血球増加 |
2~3週間 | 黄色悪露 | 黄色~淡黄色 | 血漿成分の減少、悪露量減少 |
3週間 | 白色悪露 | 淡白色~透明 | 主成分は子宮腺分泌物 |
4~6週間 | 悪露の分泌は停止 | 子宮の創傷面の治癒完了 |
(7) 膣および外陰の変化
✔ 膣壁
分娩により伸展し、娩出直後は弛緩・充血・腫脹をみる
その後急速に収縮し、緊張を回復
産褥1週間で分娩前の広さに近づく
産褥4週頃、新しい膣壁(非妊時に比べて平滑で、やや拡張)
✔ 外陰
陰裂(左右の大陰唇の間) は24時間後には閉鎖
外陰部は、分娩直後は弛緩し腫脹、急速に腫脹は軽減する。
会陰裂傷1度程度(皮膚のみの裂傷)は、1週間程度で回復する
色素沈着は、産褥6~8週までに徐々に消退するが、軽度残る
会陰裂傷や切開の有無にかかわらず、会陰部の痛みを認める
<会陰裂傷>
第1度裂傷 ― 会陰皮膚と後膣壁の膣粘膜に限局し, 筋層に及ばない裂傷
第2度裂傷 ― 筋層に及ぶが, 肛門括約筋には達しない裂傷
第3度裂傷 ― 肛門括約筋や膣直腸中隔の一部の損傷を伴う裂傷
第4度裂傷 ― 肛門粘膜, 直腸粘膜の損傷を伴い, 直腸と膣が交通する裂傷
(8) 骨盤底筋肉群
✔ 尿道括約筋・深会陰横筋・肛門挙筋・尾骨筋など
骨盤底を構成し、子宮や膀胱、直腸などの臓器を支えている
✔ 断裂がなければ、支持力は4~8週間で回復
(9) 卵巣の復古
✔ 胎盤性ホルモンの抑制がとれる(視床下部―下垂体―卵巣系)
産褥1週間で、エストロゲンとプロゲステロンは非妊時レベルまで低下
産褥2週間で、授乳の有無にかかわらず 卵胞刺激ホルモン (FSH) 濃度 は上昇
✔ 授乳しないと、血中プロラクチン濃度は、非妊時の値まで低下
➡ 血中エストラジオール・黄体形成ホルモン濃度が上昇
➡ LHサージ
➡ 月経と排卵が再開(分娩後の初回の月経は無排卵の場合がある)
* 母乳育児の状況により月経の再来の時期が異なる
(授乳婦は血中PRLの下降は緩徐)
2 進行性変化
1⃣乳房の構造と機能
✔ 乳房を囲むもの ― 脂肪組織、支持組織
✔ 乳房
・腺組織 ― 基本単位は腺房分泌上皮細胞
(腺組織は乳頭近辺までみられる)
・腺房腔は腺房細胞に取り囲まれ、小管、乳管、乳頭開口部へとつながる
✔ 乳汁
・腺房細胞から腺房腔に分泌される
✔ 筋上皮細胞は、腺房細胞の集合を網目状に取り囲んでいる
✔ 筋上皮細胞が収縮すると、乳汁が小管に放出され⇒射乳
✔ モントゴメリー腺は、乳輪に存在する分泌組織で、乳頭や乳輪に潤いを与えている
2⃣乳汁分泌の段階
✔ 乳汁産生Ⅱ期、Ⅲ期への移行時期には ばらつきがある
段階 | 時期 | 分泌される乳汁 | 特徴 |
乳汁発育期 | 妊娠初期~中期 | なし | 乳管・腺組織が増殖(エストロゲン・プロゲステロンの作用) |
乳汁生成Ⅰ期 | 妊娠中期から産後2日 | 初乳 | 腺房分泌上皮細胞から乳汁産生開始 |
乳汁生成Ⅱ期 | 産後3日~8日 | 移行乳 | プロラクチン作用の発現(プロゲステロンの急激な減少による) |
乳汁生成Ⅲ期 | 産後9日~退縮期 | 成乳 | オートクリンコントロール(需要と供給の関係による制御) |
乳房退縮期 | 最終授乳~約40日 | Cl, Na, 蛋白質、 濃度の高い初乳様乳汁 | FILの働きによる乳汁分泌の低下 |
3 母乳育児
1⃣母乳育児の指針になるもの
✔ 生後6ヵ月間は母乳だけで育て、その後は適切な補完食を与えながら2歳以上母乳育児を継続することがすすめられている
母乳育児がうまくいくための10のステップ
◆施設として必須の要件 ◆
1a 「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」と世界保健総会の関連決議を完全に順母乳育児の確立守する
1b 乳児栄養の方針を文書にし、スタッフと親にもれなく伝える
1c 継続したモニタリングとデータ管理システムを確立する
2. スタッフが母乳育児を支援するための十分な知識 能力 スキルを持つようにする
◆臨床における必須の実践 ◆
3. 母乳育児の重要性とその方法について, 妊娠中の女性およびその家族と話し合う
4. 出産直後からのさえぎられることのない肌と肌との触れ合い (早期母子接触) ができるように 出産後できるだけ早く母乳育児を開始できるように母親を支援する
5. 母親が母乳育児を開始し、継続できるように、 また、 よくある困難に対処できるように支援する
6. 医学的に適応のある場合を除いて, 母乳で育てられている新生児に母乳以外の飲食物を与えない
7. 母親と赤ちゃんがそのまま一緒にいられるよう, 24 時間母子同室を実践する
8. 赤ちゃんの欲しがるサインを認識しそれに応えるよう, 母親を支援する
9 哺乳びん, 人工乳首. おしゃぶりの使用とリスクについて, 十分話し合う
10. 親と赤ちゃんが継続的な支援とケアをタイムリーに受けられるよう,退院時に調整する
翻訳: NPO法人日本ラクテーションコンサルタント協会 2018年9月 WHO/UNICEF. The Ten Steps to Successful Breastfeeding.
2⃣母乳育児を進める理由
・母乳は新生児にとって栄養バランスが最適
・消化・吸収・排泄機能に最も適している
・消化管の成長と腸内細菌叢の形成を促す
・不正咬合を防ぎ、顎の発達を促す
・視機能の発達を促す
・知能指数、認知能力の発達を促す
・感染症の発症リスクを減らす
(中耳炎・上下気道感染症では、母乳育児期間が長いほうが疾病の予防効果がある)
・アレルギー疾患、糖尿病などの疾患の発症リスクを減らす
・母乳は母親にとって 産後の出血が減少し、子宮復古が早められる
・授乳性の無月経により月経による血液の損失が減る(貧血予防)
・授乳性の無月経により出産間隔が広がり自然の受胎調節になる
・心血管疾患, 糖尿病、関節リウマチの発症リスクが低下する
・卵巣癌と閉経前の乳癌の発症リスクが低下する
・閉経後の骨粗鬆症 大腿骨頭骨折の頻度が低下する
・ストレスへの耐性が増す
・授乳の準備がいらない(いつでもどこでも, 新鮮で適温, 調乳のための物品が不要)
・ホルモンの働きによって母性、養育行動が促される
・母児ともに母乳のにおいや、肌の触れ合いなどにより、母子相互作用が促進される
・虐待/ネグレクトの割合が少ない
・睡眠・覚醒・生活リズムを母児で共有する
***ざっくりですが事前学習レポートにおやくだてください*** |